」と、僕は思わず大きい声を出した。
「え、誰のことを考えると……」と、マデライン嬢は急に向き直って訊いた。
いや、どうも飛んだことになった。幽霊の長ばなしはマデライン嬢の注意をひかなかったが、僕はわれを忘れて大きい声を出したので、それははっきりと彼女に聞こえてしまったのである。それに対して何とか早く説明しなければならないが、もちろん、その人が彼女の大事な叔父さんであるとは言われないので、僕は急に思いつきの名を言った。
「え、ヴィラー君のことですよ」
思いつきといっても、これは極めて正当の陳述であった。ヴィラー君というのは一個の紳士で、彼もマデライン嬢に対して大いに注目しているらしいので、僕はそれを考えるたびに、彼に対して忍ぶあたわざる不快を感じていたのであった。
「あなた、ヴィラーさんのことをそんなふうに言っては悪うござんすわ」と、彼女は言った。「あのかたは若いに似合わず、非常によく教育されて、物がよく分かって、へいぜいの態度も快活な人ですわ。あのかたはこの秋、立法官に選挙されたと言っていらっしゃるのですが、私も適任者だと思っていますのよ。あのかたならばきっとようござんすわ。言うべ
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