きことがあれば、どういう時にどう言うかということを、あのかたはちゃんとご存じですもの」
 彼女は別に腹を立てたという様子も見せずに、極めておだやかに、極めて自然にそれを話した。もしマデライン嬢が僕に厚意を有するならば、僕が自分の競争者に対して不折り合いの態度を示したからといって、それについて悪感をいだかないはずである。彼女の言葉全体を案ずれば、僕にもたいてい分かるだけのヒントを得た。もしヴィラー君が僕の現在の地位にあれば、すぐに自分の思うことを言い出すに相違あるまいと思った。
「なるほど、あの人に対してそんな考えを持つのは悪いかもしれませんが……」と、僕は言った。「しかしどうも僕には我慢が出来ないのですよ」
 彼女は僕を咎《とが》めようともせず、その後はいよいよ落ち着いているように見えた。しかし僕は、はなはだ苦しんだ。僕は自分の心のうちに絶えずヴィラー君のことを考えていないということを、ここで承認したくなかったからである。
「そんなふうに大きい声で言わないほうがいいでしょう」と、幽霊は言った。「そうでないと、あなた自身が困るようなことになりますよ。私はあなたのために、諸事好都合に運ぶこ
前へ 次へ
全27ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング