なことがあったらば、早速お知らせを願いたいというだけのことです。その代りに、わたしの方でもあなたの恋愛事件については、喜んでご助力をするつもりです」
「君は僕の恋愛事件を知っているらしいね」と、僕は言った。
「オー、イエス」と、彼は少しく口をあいて言った。「私はここにいるのですからね。それを知らないわけにはゆきませんよ」
 マデライン嬢と僕との関係を幽霊に見張っていられて、二人が立ち木のあいだなどを愉快に散歩している時にも彼についていられるのかと思うと、それは気味のよくないことであった。とはいえ、彼は幽霊としてはすこぶる例外に属すべきもので、かれらの仲間に対して普通にわれわれがいだくような反感を持つことも出来なかった。
「もう行かなければなりません」と、幽霊は起《た》ちあがりながら言った。「明晩もどこかでお目にかかりましょう。そうして、あなたがわたしに加勢する……わたしがあなたに加勢する……この約束を忘れないでください」
 この会見について何事をかマデライン嬢に話したものかどうかと、僕もいったんは迷ったが、またすぐに思い直して、この問題については沈黙を守らなければならないと覚《さと》っ
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