いつでも大変な競争が起こる。また、つまらない株であると、誰も振り向いても見ない。そういうわけですから、相当の空き株があると知ったら、大急ぎでそこへ乗り込んで、私が現在の窮境を逃がれる工夫をしなければなりません。それにはあなたが加勢してくださることが出来ると思います。もしなんどき、どこに幽霊の空き株ができるという見込みがあったら、まだ一般に知れ渡らないうちに、前もって私に知らせてください。あなたがちょっと報告してくだされば、わたしはすぐに移転の準備に取りかかります」
「それはどういう意味だね」と、僕は呶鳴《どな》った。「すると、君は僕に自殺でもしろというのか。さもなければ、君のために人殺しでもしろと言うのかね」
「いや、いや、そんなわけではありません」と、彼は陽気に笑った。「そこらには、たしかに多大の興味をもって注意されるべき恋人同士があります。そういう人たちが何かのことで意気銷沈したという場合には、まことにお誂《あつら》えむきの幽霊の株ができるのです。といっても、何もあなたに関《かか》わることではありません。ただ、わたしがこうしてお話をしたのはあなたひとりですから、もし私の役に立つよう
前へ 次へ
全27ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング