た。もしこの家のうちに幽霊がいるなどということを知ったらば、彼女はおそらく即刻にここを立ち去ってしまうであろう。このことについてはなんにも言わないで、僕も挙動を慎んでいれば、彼女に疑われる気遣いはたしかにない。僕はヒンクマン氏が初めに言ったよりも、一日でもいいから遅く帰って来るようにと念じていた。そうすれば、僕は落ち着いてわれわれが将来の目的についてマデライン嬢に相談することが出来ると思っていたのであるが、今やそんな話をする機会がほんとうに与えられたとしても、それをどう利用していいか、僕にはその準備が整っていないのであった。もし何か言い出して、彼女にそれを拒絶されたらば、僕はいったいどうなるであろうか。
いずれにしても、僕が彼女にいっさいを打ち明けようとするならば、今がその時節であると思われた。マデライン嬢も僕の内心に浮かんでいる情緒を大抵は察しているべきはずであって、彼女自身も何とかそれを解決してしまいたいと望んでいるのも無理からぬことであろう。しかも、僕は暗闇のなかを無鉄砲に歩き出すようには感じていなかった。もし僕が汝《なんじ》を我《われ》にあたえよと申し出すことを、彼女も内《な
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