が持っているのだぞ」
彼ももう詮方《せんかた》が尽きたらしく、「では、あなた。ご案内をいたしましょう」
「階子《はしご》のある所を教えてくれればいい。おれが一人で仕事をするのだ」
「でも、まあ、あなた……」
わたしの癇癪《かんしゃく》は破裂しました。
「もう黙っていろ。さもないと、おまえのためにならないぞ」
わたしは彼を押しのけて、家のなかへつかつかと進んでゆくと、最初は台所、次はかの老人夫婦が住んでいる小さい部屋、それを通りぬけて大きい広間へ出ました。そこから階段を昇ってゆくと、私は友達に教えられた部屋の扉《ドア》を認めました。鍵を持っているので、雑作《ぞうさ》もなしに扉をあけて、私はその部屋の内へはいることが出来ました。
部屋の内はまっ暗で、最初はなんにも見えないほどでした。私はこういう古い空《あ》き間《ま》に付きものの、土臭いような、腐ったような臭いにむせながら、しばらく立ち停まっているうちに、わたしの眼はだんだんに暗いところに馴れてきて、乱雑になっている大きい部屋のなかに寝台の据えてあるのがはっきりと見えるようになりました。寝台にシーツはなく、三つの敷蒲団と二つの枕がな
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