るように生い茂っていました。
 わたしが雨戸を蹴る音を聞きつけて、ひとりの老人が潜《くぐ》り戸をあけて出て来ましたが、彼はここに立っている私の姿を見て非常におどろいた様子でした。私は馬から降りて、かの手紙を差し出すと、老人はそれを一度読み、また読み返して、疑うような眼をしながら私に訊《き》きました。
「そこで、あなたはどういう御用《ごよう》でございますか」
「おまえの主人の手紙に書いてあるはずだ。わたしはここの家《うち》へはいらせてもらわなければならない」
 彼はますます転倒した様子で、また言いました。
「さようでございますか。では、あなたがおはいりになるのですか、旦那さまのお部屋へ……」
 わたしは焦《じ》れったくなりました。
「ええ、おまえは何でそんなことを詮議するのだ」
 彼は言い渋りながら、「いいえ、あなた。ただ、その……。あの部屋は不幸のあったのちにあけたことがないので……。どうぞ五分間お待ちください。わたくしがちょっといって、どうなったか見てまいりますから」
 わたしは怒って、彼をさえぎりました。
「冗談をいうな。おまえはどうしてその部屋へいかれると思うのだ。部屋の鍵はおれ
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