世界怪談名作集
幽霊
モーパッサン Guy De Maupassant
岡本綺堂訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)一夕《いっせき》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かさり[#「かさり」に傍点]
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私たちは最近の訴訟事件から談話に枝が咲いて、差押えということについて話し合っていた。それはルー・ド・グレネルの古い別荘で、親しい人たちが一夕《いっせき》を語り明かした末のことで、来客は交るがわるにいろいろの話をして聞かせた。どの人の話もみな実録だというのである。
そのうちに、ド・ラ・トール・サミュールの老侯爵が起《た》ちあがって、煖炉《だんろ》の枠によりかかった。侯爵は当年八十二歳の老人である。かれは少し慄《ふる》えるような声で、次の話を語り出した。
わたしも眼《ま》のあたりに不思議なものを見たことがあります。それは私が一生涯の悪夢であったほどに不思議な事件で、今から振り返ると五十六年前の遠い昔のことですが、いまだにその怖ろしい夢に毎月おそわれているのです。そのことのあった日から、わたしは恐怖ということを深く刻みつ
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