らべてあるばかりで、その一つには今まで誰かがそこに寝ていたように、頭や肱《ひじ》の痕がありありと深く残っていました。
椅子はみな取り散らされて、おそらく戸棚であろうと思われる扉も少しあけかけたままになっていました。私はまず窓ぎわへ行って、明かりを入れるために戸をあけたが、外の鎧戸《よろいど》の蝶つがいが錆びているので、それを外すことが出来ない。剣でこじあけようとしたが、どうもうまくゆきませんでした。こんなことをしているうちに、私の眼はいよいよ暗いところに馴れてきたので、窓をあけることはもう思い切って、わたしは机のほうへ進み寄りました。そうして、肱かけ椅子に腰をおろして抽斗《ひきだし》をあけると、そのなかには何かいっぱいに詰まっていましたが、わたしは三包みの書類と手紙を取り出せばいいので、それはすぐに判るように教えられているのですから、早速それを探し始めました。
私はその表書きを読み分けようとして、暗いなかに眼を働かせている時、自分のうしろの方で軽くかさり[#「かさり」に傍点]という音を聴きました。聴いたというよりも、むしろ感じたというのでしょう。しかしそれは隙間《すきま》を洩る風が
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