なんにも言いませんでした。それはまあそれですんでしまったんですが、わたくしはどうも気になってなりません。幽霊藻が女の肌に触れると、きっとその女に祟るということを考えると、おそろしいような悲しいような……。いっそ早くそれを母や兄にでも打明けてしまった方がよかったんでしょうが、それを言うのさえ何だか怖いような気がしたもんですから、誰にも言わないでひとりで考えているだけでした。
あとでそれを市野さんに話しますと、それはお前の神経のせいだと笑っていましたけれど、その晩わたくしは怖い夢をみたんです。わたくしの寝ている枕もとへ、白い着物をきて紫の袴をはいた美しい官女が坐って、わたくしの寝顔をじっと覗いているので、わたくしは声も出せないほどに怖くなって、一生懸命に蒲団にしがみ付いているかと思うと眼がさめて、頸《くび》のまわりから身体じゅうが汗びっしょりになっていました。あくる朝はなんだか頭が重くって、からだが熱《ほて》るようで、なんとも言えないような忌《いや》な気持でしたが、別に寝るほどのことでもないので、やっぱり我慢して店に出ていました。さあ、それからがお話なんです。よく聞いてください。」
わ
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