かい女が幽霊藻の伝説に囚われて、そんな夢に襲《おそ》われたというのは、不思議のようで不思議でない。むしろ当り前の事かも知れないと、僕は思った。しかしそれからこの事件がどう発展するかということに興味をひかれて、僕も熱心に耳をかたむけていると、女はひと息ついてまた語り出した。
「ところが、どういうわけか知りませんが、きょうに限って市野さんの来るのが待たれるような気がしてならないんです。逢ってきのうの恨みを言おうというわけでもなく、ただ何となしに市野さんが待たれるような気がする。それがなぜだか自分にもよく判らないんですが、なにしろ市野さんが早く来ればいいと思っていると、その日はとうとう見えませんでした。わたくしはなんだか焦《じ》らされているような気がして、妙にいらいらして、その晩はおちおち寝付かれなかったもんですから、そのあしたになると、頭がなおさら重いような、そのくせにやっぱりいらいらして、きょうも市野さんの来るのを待っていたんです。すると、その日も市野さんは来てくれないので、わたくしはいよいよ焦れったくなって、いても立ってもいられないような心持になってしまいました。
今考えると、まった
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