水鬼
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)野人《やじん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)約二十|間《けん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)がたくり[#「がたくり」に傍点]
−−

     一

 A君――見たところはもう四十近い紳士であるが、ひどく元気のいい学生肌の人物で、「野人《やじん》、礼にならわず。はなはだ失礼ではありますが……。」と、いうような前置きをした上で、すこぶる軽快な弁舌で次のごとき怪談を説きはじめた。

 僕の郷里は九州で、かの不知火《しらぬい》の名所に近いところだ。僕の生れた町には川らしい川もないが、町から一里ほど離れた在《ざい》に入ると、その村はずれには尾花《おばな》川というのがある。ほんとうの名を唐人《とうじん》川というのだそうだが、土地の者はみな尾花川と呼んでいる。なぜ唐人川というのか、僕もよく知らなかったが、昔は川の堤《どて》に芒《すすき》が一面に生《お》い茂っていたというから、尾花川の名はおそらくそれから出たのだろうと思われる。もちろん大抵の田舎の川はそうだろうが
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