(云ひかけて弱るを、春彦夫婦は介抱す。夜叉王は假面をみつめて物云はず。以前の修禪寺の僧、頭より袈裟をかぶりて逃げ來る。)
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僧 大變ぢや、大變ぢや。かくまうて下され、隱まうてくだされ。(内に駈入りて、桂を見て又おどろく)やあ、こゝにも手負が……。おゝ、桂殿……。こなたもか。
かつら して、上樣は……。
僧 お悼《いた》はしや、御最期ぢや。
かつら えゝ。(這ひ起きて屹《きつ》と視る)
僧 上樣ばかりか、御家來衆も大方は斬死……。わし等も傍杖の怪我せぬうちと、命から/″\逃げて來たのぢや。
春彦 では、お身がはりの甲斐もなく……。
かへで 遂にやみ/\御最期か。
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(桂は失望してまた倒る。楓は取付きて叫ぶ。)
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かへで これ、姉さま。心を確に……。なう、父樣。姉さまが死にまするぞ。
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(今まで一心に假面をみつめたる夜叉王、はじめて見かへる。)
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