去る。五郎は左右に敵を引き受けて奮鬪す。)
[#ここで字下げ終わり]

       (三)

[#ここから3字下げ]
もとの夜叉王の住家。夜叉王は門にたちて望む。修禪寺にて早鐘を撞く音きこゆ。
[#ここから5字下げ]
(向ふより楓は走り出づ。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
かへで 父樣。夜討ぢや。
夜叉王 おゝ、むすめ。見て戻つたか。
かへで 敵は誰やらわからぬが、人數はおよそ二三百人、修禪寺の御座所へ夜討をかけましたぞ。
夜叉王 俄にきこゆる人馬の物音は、何事かと思うたに、修禪寺へ夜討とは……。平家の殘黨か、鎌倉の討手か。こりや容易ならぬ大變ぢやなう。
かへで 生憎に春彦どのはありあはさず、なんとしたことでござりませうな。
夜叉王 我々がうろ/\立騷いだとてなんの役にも立つまい。たゞその成行を觀てゐるばかりぢや。まさかの時には父子が手をひいて立退くまでのこと。平家が勝たうが、源氏が勝たうが、北條が勝たうが、われ/\にかゝり合ひのないことぢや。
かへで それぢやと云うて不意のいくさに、姉樣はなんとなされうか。もし逃げ惑うて過失《あやまち》で
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