や。
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(遠近にて寢鳥のおどろき起つ聲。下田五郎は橋を渡りて出づ。)
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五郎 常はさびしき山里の、今宵は何とやらん物さわがしく、事ありげにも覺ゆるぞ。念のために川の上下《かみしも》を一わたり見廻らうか。
春彦 五郎どのではおはさぬか。
五郎 おゝ、春彦か。
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(春彦は近《ちかづ》きてさゝやく。)
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五郎 や、なんと云ふ。金窪の參入は……。上樣を……。しかと左樣か。むゝ。
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(五郎はあわたゞしく引返しゆかんとする時、橋の上より軍兵一人長卷をたづさへて出で、無言にて撃つてかゝる。五郎は拔きあはせて、忽ち斬つて捨つ。軍兵數人、上下より走り出で、五郎を押つ取りまく。)
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五郎 やあ、春彦。こゝはそれがしが受け取つた。そちは御座所へ走せ參じて、この趣を注進せい。
春彦 はつ。
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(春彦は橋をわたりて走り
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