たが、不思議やこのたびの面に限つて、幾たび打直しても生きたる色なく、たましひもなき死人の相……。それは世にある人の面ではござりませぬ。死人の面でござりまする。
五郎 そちは左樣に申しても、われらの眼には矢はり生きたる人の面……。死人の相とは相見えぬがなう。
夜叉王 いや、いや、どう見直しても生ある人ではござりませぬ。しかも眼《まなこ》に恨を宿し、何者をか呪ふがごとき、怨靈《をんりやう》怪異《あやかし》なんどのたぐひ……。
僧 あ、これ、これ、そのやうな不吉のことは申さぬものぢや。御意にかなへばそれで重疊《ちようでふ》、ありがたくお禮を申されい。
頼家 むゝ、兎にも角にもこの面は頼家の意にかなうた。持歸るぞ。
夜叉王 強《たつ》て御所望とござりますれば……。
頼家 おゝ、所望ぢや。それ。
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(頼家は頤《あご》にて示せば、かつら心得て假面を箱に納め、すこしく媚を含みて頼家にさゝぐ。頼家は更にその顏をぢつと視る。)
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頼家 いや、猶《なほ》かさねて主人《あるじ》に所望がある。この娘を予が手許に召仕ひた
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