の徒《やから》ばかりだ。かれらの顔をいちいち睨みまわして、県令は大きい声で、貴様たちはけしからん奴らだ、人殺しをしてその儘に済むと思うか、証拠は歴然、隠しても隠しおおせる筈はないぞ、さあまっすぐに白状しろと頭から叱り付けると、土工らは蒼くなってふるえ出した。そうして、相手のいう通り、まっすぐに白状に及んだ。その白状によると、かれらは徹夜で王家の塚の土盛りをしていたところへ、ひとりの旅びとが来かかって松明《たいまつ》の火を貸してくれといった。見ると、彼は重そうに銀嚢《かねぶくろ》を背負っているので、土工らは忽ちに悪心を起して、不意に鉄の鋤《すき》をふりあげて、かの旅びとをぶち殺してしまって、その銀を山分けにした。死体は王家の柩の上に埋めて、またその上に土を盛り上げたので、爾来《じらい》数年のあいだ、誰も知らなかったというわけだ。」
「すると、幽霊はその旅びとだね。」と、わたしは言った。「しかし幽霊になって訴えるくらいなら、なぜ早く訴えなかったのだろう。そうしてまた、舞台の上に現れるにも及ぶまいじゃないか。」
「そこにはまた、理屈がある。土工らは旅びとを殺して、その死体の始末をするときに、
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