して他人の死骸などを埋めた覚えはない。自分の家は人に知られた旧家であるから、母の葬式には数百人が会葬している。その大勢のみる前で母の柩《ひつぎ》に土をかけたのであるから、他人の死骸なぞを一緒に埋めれば、誰かの口から世間に洩れる筈である。まだお疑いがあるならば、近所の者をいちいちお調べくださいというのだ。」
「しかしその葬式が済んだあとで、誰かがまたその死骸を埋めたかも知れないじゃないか。」
「そこだ。」と、K君はうなずいた。「シナの役人だって、君の考えるくらいの事は考えるよ。県令もそこに気がついたから、さらに王にむかって、おまえは墓の土盛《つちも》りの全部済むのを見届けて帰ったかと訊問すると、母の柩《ひつぎ》を納めて、その上に土をかけるまでを見届けて帰ったが、塚全体を盛りあげるのは土工《どこう》に任せて、その夜のうちに仕上げたのであると答えた。シナの塚は大きく築き上げるのであるから、柩に土をかけるのを見届けて帰るのがまず普通で、王の仕方に手落ちはなかったが、そうなると更に土工を吟味しなければならない。県令はその当時埋葬に従事した土工らを大勢よび出してみると、いずれも相貌《そうぼう》兇悪
前へ 次へ
全26ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング