女侠伝
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)西湖《せいこ》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)秋雨|蕭々《しょうしょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)隠してしまったが[#「しまったが」は底本では「しまつたが」]、
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一
I君は語る。
秋の雨のそぼ降る日である。わたしはK君と、シナの杭州、かの西湖《せいこ》のほとりの楼外楼《ろうがいろう》という飯館《はんかん》で、シナのひる飯を食い、シナの酒を飲んだ。のちに芥川龍之介氏の「支那游記」をよむと、同氏もここに画舫《がぼう》をつないで、槐《えんじゅ》の梧桐《ごとう》の下で西湖の水をながめながら、同じ飯館の老酒《ラオチュウ》をすすり、生姜煮《しょうがに》の鯉を食ったとしるされている。芥川氏の来たのは晩春の候で、槐や柳の青々した風景を叙してあるが、わたしがここに立寄ったのは、秋もようやく老いんとする頃で、梧桐はもちろん、槐にも柳にも物悲しい揺落《ようらく》の影を宿していた。
わたし達も好きで雨の日を択《えら》んだわけではなかったが、
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