あるまい。座頭の李が死んだ以上、おまえの一座も解散のほかはあるまいから、これを機会に周にも俳優をやめさせて、二人が夫婦になって何か新しい職業を求める方がよかろう。わたしもここを立去るつもりだから、もうお前にも逢えまいと言った。崔は名残り惜しく思ったが、今更ひき留めるわけにもいかない。せめてあなたの名を覚えて置きたいといったが、女は教えなかった。わたしは世間で言いふらす通り、蘇小小の霊だと思っていてくれればいいと、女は笑って別れようとする途端に、かの捕吏があらわれて来た……。これで一切の事情は明白になったのだが、崔が果して李香殺しに何の関係もないのか、あるいはかの女と共謀であるのか、本人の片口だけではまだ疑うべき余地があるので、崔はすぐに釈放されなかった。すると、ある朝のことだ。係りの役人が眼をさますと、その枕もとに短い剣と一通の手紙が置いてあって、崔の無罪は明白で、その申立てに一点の詐《いつわ》りもないのであるから、すぐ[#「すぐ」は底本では「すく」]釈放してくれと認《したた》めてあった。何者がいつ忍び込んだのか勿論わからないが、その剣をみて、役人はぞっとした。ぐずぐずしていれば、おま
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