えの寝首を掻くぞという一種の威嚇《いかく》に相違ない。ここまで話せば、その後のことは君にも大抵の想像はつくだろう。李の一座はここで解散した。崔と周とは手に手をとってどこへか立去った。」
「その結末はたいてい想像されるが、その女は何者だか判らないじゃないか。」
「それは女侠というもので、つまり女の侠客だ。」と、K君は最後に説明した。「日本で侠客といえばすぐに幡随院長兵衛のたぐいを連想するが、シナでいう侠客はすこし意味が違う。勿論、弱きを助けて強きを挫《くじ》くという侠気も含まれているには相違ないが、その以外に刺客《しかく》とか、忍びの者とか、剣客とかいうような意味が多量に含まれている。それだけに、相手にとっては幡随院長兵衛などより危険性が多いわけだ。侠客が世に畏《おそ》れられるのはそこにある。崔を救った女も一種の女侠であることは、美人の繊手《せんしゅ》で捕吏ふたりを投げ倒したのや、役人の枕もとへ忍び込んで短剣と手紙を置いて来たのや、それらの活動をみても容易に想像されるではないか。シナの侠客のことはいろいろの書物に出ている。知らないのは君ぐらいのものだ。しかしその侠客すなわち剣侠、僧侠、女
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