その美しい眉をあげた。そうして、崔にむかって決して死ぬには及ばない。わたしが必ずおまえさん達を救ってやるから、今夜は無事に宿へ帰ってこの後の成行きを見ていろと誓うように言った。それが嘘らしくも思われないので、崔は死ぬのを思いとどまって素直にそのまま帰ってくると、その翌日、かの女は李の芝居を見物に来て、楽屋へ何かの贈り物をした。それが縁になって、どういう風に話が付いたのか、李はかの女に誘い出されて、二度までも西湖のほとりへ行ったらしい。三度目に行ったときに、おそらく何かの眠り薬でも与えられたのだろう、蘇小小の墓の前に眠ったままで、再び醒めないことになってしまったのだ。そういう訳だから、崔はその下手人を大抵察しているものの、役人たちの調べに対して、なんにも知らない顔をしていると、その日の夕方、誰が送ったとも知れない一通の手紙が崔のところへ届いて、蘇小小の墓の前へ今夜そっと来てくれとあるので、崔はその人を察して出て行くと、果してかの女が待っていた。」
「その女は何者だね。」
「それは判らない。女は崔にむかって、わたしも蔭ながら成行きを窺っていたが、李の一件もこれで一段落で、もうこの上の詮議は
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