ててしまったが、それでも舞台を休むことを許されなかった。それを見せつけられている崔は悲しかった。自分もやがては周とおなじような残虐な仕置を加えられるかと思うと、それも怖ろしかった。」
「なるほど、そこで李を殺す気になったのだね。」
「いや、それでも崔は少女だ。さすがに李を殺そうという気にはなれなかったらしい。さりとてこの儘にしていれば、周は責め殺されてしまうかも知れないので、彼女は思いあまって一通の手紙をかいた。すなわち自分の罪を深く詫びた上で、その申訳に命を捨てるから、どうぞ周さんをゆるしてくれ。周さんが悪いのではない、何事もわたしの罪であるというような、男をかばった書置を残して崔はある夜そっと旅館をぬけ出した。そのゆく先はこの西湖で、彼女は月を仰いで暫く泣いた後に、あわや身を投げ込もうとするところへ、不意にあらわれて来たのが、かの蘇小小の霊といわれる美人だ。美人は崔をひきとめて身投げの子細をきく。それがいかにも優しく親切であるので、年のわかい崔はその女の腕に抱かれながら一切の事情を打明けた。それが今度の問題ばかりでなく、過去の秘密いっさいをも語ってしまったらしい。それを聞いて、女は
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