の僕でも少しは眼のさきが明かるくなった。もし彼が想像する通りに、かの男女学生らのあいだに普通以上の交際があるとすれば、ふたりの女学生の変死も単に食い物の中毒とばかりは認められないように思われて来た。そんなら誰がどうして殺したのか、二人の学生が二人の女学生を毒殺したのか。なんの目的でそんな怖ろしいことを仕いだしたのか。単純な僕の頭脳《あたま》では、やはりその疑問を解決することは出来そうもなかった。
 僕はともかくも二階を降りて行って、下の様子をそっとうかがうと、二人の学生は女学生たちの死体を横たえている八畳のうす暗い座敷に坐って、ゆうべとはまるで打って変わったようなしおれ切った態度で、白い布をかけてある死体を守っているらしかった。そのそばには眼を泣き腫らした女学生の一人がしょんぼりと坐っていた。宿の者が供えたらしい線香の煙りが微かになびいて、そこには藪蚊のうなり声もきこえないほどに森閑と静まり返っていた。
 宿の者の話によると、けさ早々に東京へ電報を打ったのであるから、今夜か、あるいはあしたの早朝には死体を引き取りに来るのであろうとのことであった。

 日が暮れて風呂に行くと、かの通信員
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