もあとからはいって来た。かれは今夜もこの旅籠屋に泊まり込みで、事件の真相を探り出すのだと言っていた。
「女学生はたしかに毒殺ですよ。」と、彼は風呂のなかでささやいた。「わたしは偶然それを発見したので、警察の人にもそっと注意しておきました。」
「毒殺ですか。」と、僕は眼をみはった。
「その証拠はね。」と、かれは得意らしく又ささやいた。「わたしが午後に郵便局へ行って、その帰りに荒物屋へよって煙草を買っていると、そこの前に遊んでいる子供たちから、こういうことを聞き出したのですよ。きのうの午《ひる》頃に三人の女学生が近所の山から降りて来た。どの人も手にはいろいろの草花を持っていたが、そのなかにどこで採ったのか沢桔梗《さわききょう》を持っている者があるのを、通りかかった子供が見つけて、姐《ねえ》さんそれは毒だよと注意したそうです。沢桔梗の茎《くき》からは乳のような白い汁が出て、それは劇しい毒をもっているので、ここらでは孫左衛門殺しといって、子供でも決して手を触れないことにしているのです。女学生たちも毒草ときいてびっくりしたらしく、みんな慌ててそれを捨ててしまったそうです。さあ、そこですよ。すでに
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