てあんな悪いたずらをする筈がない。前からの知合いと判って、僕もはじめて成る程と得心した。かれらのいたずらに対して、相手の方でも深くとがめなかった理由もそれで覚られた。
「学生の一人は遠山、ひとりは水島というのです。」と、通信員はまた教えてくれた。「どっちも同《おな》い年で、宿帳には二十二歳としるしてありました。二人とも徒歩で木曾街道を旅行して、それから名古屋へ出て、汽車で東京へ帰る予定だということです。唯それだけのことで、別に怪しい点もないのですが、かの女学生たちと前から知合いであるというので、警察の方でも取り調べ上の参考として必要な人間でもあり、もう一つはその晩に例の山椒の魚の一件があるので、かたがた引き留められているのですが、わたしの考えでは、あの学生たちは単に懇意という以上に、女学生と親密な関係があるのじゃないでしょうか。あなたはそんな形跡を認めませんでしたか。」
「知りませんね。」
なにを訊かれても一向に要領を得ないので、通信員の方でも見切りをつけたらしく、いい加減に話を打ち切って僕の座敷を出て行ってしまった。しかし、かの通信員からこれだけのヒントを与えられて、いかにぼんくら
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