に唯ぼんやりしているばかりで、なにを訊いても要領を得ないには警察の方でも弱っているようです。」
「なにしろ気の毒なことでしたね。」と、僕は顔をしかめて言った。実際、若い女学生が二人までも枕をならべて旅に死ぬというのは、あまりに悲惨の出来事であると思った。
「ところで、その前に山椒の魚の騒ぎがあったそうですね。」と、通信員はささやいた。「それとこれと何か関係があるのでしょうか。あなたの御鑑定はどうです。」
 それも僕にはまるで見当がつかなかった。かの悪いたずらと変死事件とのあいだに、なんらかの脈絡があるかないか、それはすこぶる研究に値する問題であるとは思いながらも、その当時の僕には横からも縦からも、その端緒をたぐり出しようがなかった。
「一体あの学生はどこの人です。やはり東京から来たんですか。」
「そうです。」と、通信員はさらに説明した。「勿論ここへは別々に来たのですが、一方の女学生たちとは東京にいるときから知っていて、偶然にここで落ち合ったらしいのです。」
「では、前から知っているんですか。」と、僕も初めてうなずいた。
 いくらいたずら好きの学生たちでも、さすがに見ず知らずの女達に対し
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