を開始することになった。ゆうべ悪いたずらをした学生たちもこの旅籠屋を立ち去ることを許されなかった。
そのなかで僕だけは全然無関係であるから、自由に出発することが出来たのであるが、この事件の落着がなんとなく気にかかるので、僕ももう一日ここに滞在することにして、一種の興味をもってその成り行きをうかがっていると、午飯《ひるめし》を食ってしまった頃に、近所の町から東京の某新聞社の通信員だという若い男が来た。商売柄だけに抜け目なくそこらを駈け廻って、なにかの材料を見つけ出そうとしているらしく、僕の座敷へも馴れなれしくはいって来て、なにか注意すべき材料はないかと訊いた。訊かれても僕はなんにも知らない、かえって先方からこんな事実を教えられた。
「あの女学生は東京の○○学校の寄宿舎にいる人達で、なにか植物採集のためにこの地へ旅行して来たのだそうです。死んだ二人は藤田みね子と亀井兼子、無事な一人は服部近子、三人ともにふだんから姉妹《きょうだい》同様に仲よくしていたので、今度の夏休みにも一緒に出て来たところが、二人揃ってあんなことになってしまったものですから、生き残った服部というのは、まるで失神したよう
前へ
次へ
全19ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング