食いなどをした覚えもない。単に宿の食事を取っただけであるから、もし中毒したとすれば宿の食い物のうちに何か悪いものがまじっていたに相違ないとのことであった。医師はとりあえず解毒剤をあたえたが、二人はいよいよ苦しむばかりで、夜のあけないうちに枕をならべて死んでしまった。こうなると、騒ぎはますます大きくなって、駐在所の巡査もその取り調べに出張した。
女学生たちのゆう飯の膳に出たものは、山女《やまめ》の塩焼と豆腐のつゆと平《ひら》とで、平の椀には湯葉と油揚《あぶらげ》と茸《きのこ》とが盛ってあった。茸は土地の者も名を知らないが、近所の山に生えるものでかつて中毒したものはないというのであった。ことにおなじ物を食った三人のうちで一人は無事である。いたずら者の学生二人も、僕も、やはりそれを食わされたのであるが、今までのところではいずれも別条がない。そうして見ると、きっと食い物のせいだとはいわれまいと、旅籠屋の方で主張するのも無理はなかった。しかし何といっても人間二人が一度に変死したのだから容易ならぬ事件である。駐在所だけの手には負えないで、近所の大きい町から警部や医師も出張して、厳重にその取り調べ
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