今わかった。かれらは動物学研究のためでも何でもない。下座敷《したざしき》に泊まっている三人の女学生をおどそうという目的で、かの奇怪な動物を買い込んだのであった。若い女学生たちは下座敷のひとつの蚊帳のなかに寝床を並べている。その枕もとへ山椒の魚をそっと這い込ませて、彼女らにきゃっと言わそうという悪いたずらで、学生のひとりは夜の更けるのを待って、新聞紙に包んだ山椒の魚を持って下座敷へ忍んで行って、それが首尾よく成功したらしく、かの女学生たちは夜なかにみんな飛び起きて悲鳴をあげるという大騒ぎを惹き起こしたのであった。
どこの学生だか知らないが、帰省の途中か、避暑旅行か、いずれにしても若い女に対して飛んでもない悪いたずらをしたものだと、僕は苦々しく思いながら再び枕につくと、さらに第二の騒動が出来した。山椒の魚におどろかされた女学生たちは、その正体が判ってようよう安心して、いずれも再び枕につくと、そのうちの二人が急に苦しみ出した。
宿でもおどろいて、すぐに近所の医師を呼んで来ると、なにかの食い物の中毒であろうという診断であった。しかしその一人は無事で、そのいうところによると、三人は昼間から買
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