らいの若い女達で、修学旅行にでも来て、どこかの旅籠屋に泊まって、僕とおなじように見物ながら散歩に出て来たらしく見えた。
 すれ違ったままで、僕は自分の宿に帰ると、入口に二人の学生風の若い男が立っていて、土地の商人《あきんど》を相手になにか買物でもしているらしいので、僕はなに心なく覗いてみると、商人は短い筒袖に草鞋ばきという姿で、なにか盤台《はんだい》のようなものを列べていた。魚屋かしらと思ってよく見ると、その盤台の底には少しばかり水を入れて、うすぐろいような不気味な動物が押し合って、うずくまっていた。それは山椒《さんしょ》の魚《うお》であった。箱根ばかりでなく、ここらでも山椒の魚を産することは僕も知っていたので、しばらく立ち停まって眺めていると、学生の一人はさんざんひやかした末に、とうとうその一匹を買うことになったらしい。かれらは生きた山椒の魚を買ってどうするのかと思いながら、僕はその落着《らくじゃく》を見とどけずに内へはいってしまったが、学生たちは大きい声でげらげら笑っていた。
「お風呂が沸きました。」
 かの小女が知らせに来たので、僕はあたかも書き終った日記の筆をおいた。手拭をぶら
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