近子がなんにも知らずにその毒を食おうとするのを見て、急にたまらなくなってその椀を自分のと取り換えたのか、いずれにしても、毒と知りつつその椀に箸をつけた以上、彼女も生きる気はなかったに相違ない。みね子が椀を取りかえたのは、給仕の女中ばかりでなく近子自身も認めている。そこへあたかも山椒の魚の問題が起こったので、事件はひどくこんがらかったのですが、それは一種の余興にすぎないことで、毒草事件とは全く無関係であるということが、後でようやく判明したのです。近子は遠山と二人の友達との関係をよく承知していたらしいのですから、初めに早くそれを言ってくれると、もう少し早く解決がついたのですが、あくまでも秘していたものですから、その取り調べが面倒になってしまったのです。遠山もそうです。初めに早く白状すればいいのですが、これもなるべく隠そうとしていたものですから、警察にも余計な手数をかけたわけです。それでも遠山は兼子との関係をとうとう白状しましたが、みね子との関係は絶対に否認していました。どっちが本当だか判りませんよ。」
「しかしそれだけ判れば、あなたの御通信には差し支えないでしょう。」
「ところがいけない。
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