実は馬鹿を見ましたよ。」と、かれは不平らしく言った。「学校の方では勿論、死んだ二人の遺族の者も、この秘密をどうぞ発表してくれるなと、警察の方へ泣きついたものですから、表面は単になにかの中毒ということになってしまうらしいのです。それじゃあ面白い通信も書けませんよ。わたしも頼まれたから仕方がない。名の知れない茸の中毒ぐらいのことにして、短く書いて送るつもりです。」
 通信員はあくる朝早々に出て行った。僕もおなじ町の方へむかって行くので、一緒に連れ立って出発した。その途中で彼は指さして僕に教えた。
「御覧なさい。あすこでも山椒の魚を売っていますよ。」
 僕はその醜怪な魚の形を想像するにたえなかった。それが怖ろしい女の姿のように見えて――。
[#地付き](『近古探偵十話』春陽堂、28[#「28」は縦中横]/『岡本綺堂読物選集・6』青蛙房、69[#「69」は縦中横]・10[#「10」は縦中横])



底本:「文藝別冊[総特集]岡本綺堂」河出書房新社
   2004(平成16)年1月30日発行
底本の親本:「岡本綺堂読物選集6」青蛙房
   1969(昭和44)年10月
初出:「近古探偵十話」春
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