、生き残った服部近子は駐在所へ呼び出されて、なにか厳重の取り調べを受けているらしく、夜のふけるまで帰って来なかった。八月の初めというのに、その晩は急に冷えて来て、僕は夜なかに幾たびか眼をさました。
あくる日の午前中に東京から三人の男が来た。ひとりは学校の職員で、他の二人は死者の父と叔父とであるということを、僕は宿の女中から聞かされた。三人は蒼ざめた、おちつかない顔をして、旅籠屋と駐在所とのあいだを忙がしそうに往復していたが、その日もやがて暮れ切った頃に二人の若い女の死体は白木の棺に収められて、旅籠屋の門口《かどぐち》を出た。連れの女学生一人と、東京から引き取りに来た男三人と、宿の者も二人付き添って、町はずれの方へ無言でたどって行った。学生二人も少しおくれて、やはりその一行のあとにつづいて行った。
僕も宿の者と一緒に門口まで見送ると、葬列に付き添って行く宿の者の提灯二つが、さながら二人の女の人魂《ひとだま》のように小さくぼんやりと迷って行った。僕もなんだか薄ら寂しい心持になって、その灯の影をいつまでも見つめていると、うしろから不意に肩をたたく人があった。
「まずこれでこの事件も解決し
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