手にかゝって、荷物をかつがせて行ったのですが、間違いの起るときは仕方のないもので、その前の晩は、三島の宿《しゅく》に幾組かの大名の泊りが落合って、沢山の人足が要ることになったので、助郷《すけごう》までも狩りあつめてくる始末。助郷というのは、近郷の百姓が一種の夫役のように出てくるのです。それでもまだ人数が不足であったとみえて、宿はずれに網を張っている雲助までも呼びあつめて来たので、今宮さんの人足三人のうちにも平作の若いようなのが一人まじっていました。年は三十前後で、名前はかい[#「かい」に傍点]助と云うのだそうですが、どんな字を書くのか判りません。本人もおそらく知らなかったかも知れません。なにしろかい[#「かい」に傍点]助という変な名ではお話が仕にくいから、仮りに平作と云って置きましょう。そのつもりでお聴きください。
人足どもはそれ/″\に荷物をかつぐ。彼の平作は鎧櫃をかつぐことになりました。担ごうとすると、よほど重い。平作も商売柄ですから、すぐにこれは普通の鎧櫃ではないと睨みました。這奴《こいつ》なか/\悪い奴とみえて、それをかつぐ時に粗相の振をしてわざと問屋役人の眼のまえで投げ出し
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