、この人足も問屋場に詰めているのは皆おとなしいもので、決して悪いことをする筈はないのです。もし悪いことをして、次の宿の問屋場にその次第を届け出られゝば、すぐに取押えて牢に入れられるか、あるいは袋叩きにされて所払いを食うか、いずれにしても手ひどい祟をうけることになっているのですから、問屋場にいるものは先ず安心して雇えるわけです。しかしこの問屋場に係り合のない人足で、彼の伊賀越の平作のように、村外れや宿はずれにうろ付いて客待をしている者の中には、所謂雲助根性を発揮して良くないことをする奴もありました。そんなら旅をする人は誰でも問屋場《といやば》にかゝりそうなものですが、問屋場には公定相場があって負引《まけひき》が無いのと、問屋場では帳簿に記入する必要上、一々その旅人の身許や行く先などを取りしらべたりして、手数がなか/\面倒であるので、少しばかりの荷物を持った人は問屋場の手にかゝらないことになっていました。勿論、お尋ね者や駈落者などは我身にうしろ暗いことがあるから問屋場にはかゝりません。そこが又、悪い雲助などの附込むところでした。
 今宮さんの一行は立派な御用道中ですから、大威張りで問屋場の
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