、日が暮れてからは滅多に往来のある所ではございませんから。
そのうちに、低い跫音――ほんとうに遠い世界の響きを聞くような、低い草履の音が微かに聞えました。わたくしははっ[#「はっ」に傍点]と思うと、からだが急に赫《かっ》と熱《ほて》ってまいりました。些《ちっ》とも油断しないで耳を立てゝいますと、案の通りその跫音は木戸の外へひた/\と寄って来ましたので、さっきから待兼ねていたわたくしは、すぐに木戸をあけて暗いなかを透して視ますと、そこには人が立っているようでございました。
「照之助さんでございますか。」
わたくしは低い声で訊きました。
「左様でございます。」
外でも声を忍ばせて云いました。
「どうぞこちらへ。」
照之助は黙って竊《そっ》と這入って来ましたので、わたくしは探りながらその手を把《と》って、お居間の方へ案内してまいりました。照之助もなんだか顫えているようでしたが、わたくしは全く顫えまして、胸の動悸がおそろしいほどに高くなってまいりました。五位鷺がまた鳴いて通りました。
奥様はわたくしに琴を弾けと仰しゃいました。それは十兵衛の女房や、ほかの女中二人に油断させる為でござ
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