動様の四つの鐘のきこえるのを相図に、わたくしは竊《そっ》とお庭に出て、木戸の口に立番をしていますと、旧暦の九月ももう末ですから、夜はなか/\冷えて来て、広いお庭の闇のなかで竹藪が時々にがさ[#「がさ」に傍点]/\と鳴る音が寒そうにきこえます。お屋敷の屋根の上まで低く掩いかゝった暗い大空に、五位鷺の鳴いて通るのが物すごく聞えます。これがふだんならば、臆病なわたくしには迚《とて》も辛抱は出来そうもないのでございますが、今夜はいつもと違って気が一ぱいに張りつめています。幽霊の冷たい手で一度ぐらい顔を撫でられても驚くのではありません。わたくしは息をつめて、その人の来るのを今か今かと待設けていました。
振返ってみますと、奥様の御居間の方には行燈の灯がすこし黄く光っていました。その行燈の下で奥様はなにか草雙紙でも御覧になっている筈ですが、どんなお心持でその草雙紙を読んでいらっしゃるか、わたくしにも大抵思いやりが出来ます。それにつけても、照之助が早く来てくれゝば可《い》いと、わたくしも顔を長くして耳を引立てゝいますと、どこやらで犬の吠える声が時々にきこえますが、人の跫音らしいものは聞えません。勿論
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