自分から切腹したのか。それとも表向きになっては雷見舞の秘密が露顕するというので、当人に因果をふくめて自滅させたのか。そこらの事情はよく判りませんが、いずれにしても一人の侍がよし原へ雷見舞にやられて、結局痛い腹を切るようになったのは事実です。料理屋の方でも二人は即死、ほかの怪我人は助かったそうです。」
「まったく飛んだことになったものでした。」と、わたしも溜息をついた。「その後もその大名はよし原へ通っていたのですか。」
「いや、それに懲りたとみえて、その後は一切足踏み無しで、諸越花魁も大事のお客をとり逃してしまったわけです。」
 云いながら老人は老女の顔を横目にみた。わたしも思わず彼女の顔をみた。三人の眼が一度に出逢うと、老女はあわてゝ俯向いてしまった。しばしの沈黙の後に、老人は庭をみながら云った。
「さっきの雷で梅雨もあけたと見えますね。」
 庭には明るい日が一面にかゞやいていた。
[#改段]

下屋敷

       一

 その次に三浦老人をたずねると、又もや一人の老女が来あわせていた。但し彼女はこの間の「雷見舞」の女主人公とは全く別人で、若いときには老人と同町内に住んでいた人だと
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