具のあいだに押込んでありました。手早くひき摺り出して腰にさすと、又うしろから掴み付く奴がある。なにしろ多勢に無勢ですし、こっちも少し逆上《のぼ》せていますから、もうなんの考えもありません。大次郎は掴みつく奴を力まかせに蹴放して、また寄って来ようとするところを抜撃ちに斬りました。
「わあ、人殺しだ。」
騒ぎまわる奴等をつゞいて二三人斬り倒して、大次郎は二階からかけ降りました。
びっくりしている駕籠屋にむかって、大次郎は叱るように云いました。
「いそいで吉原へやれ。」
駕籠屋も夢中でかつぎ出しました。
「実に飛んだことになったものですよ。」と、三浦老人はため息をついた。「大次郎という人はその足で吉原へ飛んで行って、諸越花魁に逢って、式《かた》のごとくに雷見舞の口上をのべて帰りました。帰っただけならばいゝのですが、屋敷へ帰ってから切腹したそうです。相手が相手ですから、あるいは殺し得で済んだかも知れなかったのですが、兎も角それだけの騒ぎを仕出来したので、世間の手前、屋敷でも捨てゝ置かれなかったのか。それともお使に出た途中で、こんなことを仕出来《しでか》しては申訳がないというので、当人が
前へ
次へ
全239ページ中197ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング