畳みかけて罵倒したのです。いくら口惜がっても清吉は年が若い、口のさきの勝負では迚《とて》もこゝのおふくろに敵わないのは知れている。それでも負けない気になって二言三言云い合っているうちに、周囲《まわり》にはいよ/\人立ちがして来たので、おふくろの方でも焦れったくなって来た。
「お前さんのような唐人を相手にしちゃあいられない。なにしろ、お金はあたしの娘なんだからね。当人同士どんな約束があるか知らないが、お金を貰いたけりゃあその背中へ立派に刺青をしておいでよ。」
 おふくろは勝鬨のような笑い声を残して、奥へずん[#「ずん」に傍点]/\這入ってしまうと、お金はなんにも云わずに、つゞいて行ってしまった。取残された清吉は身顫いするほどに口惜がりました。
「うぬ、今に見ろ。」
 その足ですぐに駈け込んだのが源七|老爺《じい》さんの家でした。老爺さんはその頃宇田川横町に住んでいて、近所の人ですからお互いに顔は知っていたのです。
 おなじ悪口でも、いっそ馬鹿とか白痴《たわけ》とか云われたのならば、清吉も左ほどには感じなかったかも知れないのですが、ふだんから自分も苦に患《や》んでいる自分の弱味を真正面《ま
前へ 次へ
全239ページ中173ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング