立てて、提灯に蝋燭《ろうそく》の灯を入れることになった。それを待つあいだに、文次郎はまた訊いた。
「それにしても、なぜ私たちのあとを追っかけて来るのだ。ひとりでは寂しいのかえ。」
「はい。日が暮れると、ここらは不用心でございます。わたくしは少々大事な物をかかえておりますので……。」
「よっぽど大事なものかえ。」と、文次郎は浅黄色の風呂敷包みに目をつけた。
「はい。」
駕籠屋の灯に照らし出された老婆は、その若い時を偲《しの》ばせるような、色の白い、人品のよい女であった。木綿物ではあるが、見苦しくない扮装《いでたち》をしていた。
「しかし年寄りの足で私たちの駕籠に付いて来ようとするのは無理だね。転《ころ》ぶとあぶないぜ。」
言ううちに、駕籠は再びあるき出したので、文次郎も共にあるき出した、老婆もやはり続いて来た。鈴ヶ森の畷《なわて》ももう半分ほど行き過ぎたと思うころに、老婆はつまずいて、よろけて、包みを抱えたままばったりと倒れた。
「それ、見なさい、言わないことじゃあない。それだから危ないというのだ。」
文次郎は引っ返して老婆を扶《たす》け起そうとすると、かれは返事もせずにあえいでい
前へ
次へ
全25ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング