経帷子の秘密
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)駕籠《かご》が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)足|拵《ごしら》えを

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《とき》
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     一

 吉田君は語る。

 万延元年――かの井伊大老の桜田事変の年である。――九月二十四日の夕七つ半頃(午後五時)に二挺の駕籠《かご》が東海道の大森を出て、江戸の方角にむかって来た。
 その当時、横浜《ハマ》見物ということが一種の流行であった。去年の安政六年に横浜の港が開かれて、いわゆる異人館《いじんかん》が続々建築されることになった。それに伴って新しい町は開かれる、遊廓も作られる、宿屋も出来るというわけで、今までは葦芦《よしあし》の茂っていた漁村が、わずかに一年余りのあいだに、眼をおどろかすような繁華の土地に変ってしまった。それが江戸から七里、さのみ遠い所でもないので、東海道を往来の旅びとばかりでなく、
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