は兄貴とおれとが相棒で稼ぎに出るばかりだ。
おかん 兄弟が相棒で御神輿《おみこし》でもかつぎに出るのかえ。(土間を見返りてあざ笑ふ。)肝腎《かんじん》のかつぐ物があるかよ。
助十 (すこし詰まつて。)なに、駕籠なんぞは何處からでも拾つて來る。なあ、八。
助八 むゝ、大川へ行つてみろ。そんな駕籠なんぞは上《あ》げ汐《しほ》で幾らも流れて來らあ。
おかん 下駄の古いのと一緒になるものかね。ばか/\しい。詰らない無駄口をおききでないよ。
助十 手前の方がよつぽど無駄口を利《き》いてゐやあがる。河岸の切見世《きりみせ》でぺちやくちや[#「ぺちやくちや」に傍点]囀《さへづ》つてゐた癖がぬけねえので、近所となりは大迷惑だ。おなじ年明《ねんあ》きを引摺り込むにしても、もう少し眞人間らしいのを連れて來ればいゝのに、權三の奴めも見かけによらねえ洟《はな》つ垂《た》らし野郎だ。
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(奧の障子をあけて權三、これも三十歳前後の刺青のある男、浴衣の片褄を取りながら出づ。)
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權三 やい、やい。さ
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