つきから奧で聞いてゐりやあ、手前たちは兄弟揃つて、よくも口から出放題の惡體《あくたい》もくたい[#「もくたい」に傍点]を列《なら》べ立てやあがつたな。なるほど俺のかゝあは吉原の河岸見世にゐた女で、飛んだ惚《のろ》けをいふやうだが、おたがひに好き合つて夫婦になつたのだ。それがなんで洟つ垂らしだ。惚れた女とは夫婦になるなといふ奉行所のお觸れでも出たのか。ざまあ見やがれ。
おかん ほんたうに近所迷惑とはこつちで云ふことさ。よるも晝も兄弟喧嘩を商賣のやうにしてゐて、その仲裁に行くのはいつでもあたしの役ぢやあないか。
助八 えゝ、手前たちこそ毎日毎晩、犬も食はねえ夫婦喧嘩ばかりしてゐやあがつて、その留男《とめをとこ》の役はいつでも誰が勤めると思つてゐるのだ。
助十 まあ、まあ、だまつてゐろ。こんなすべた[#「すべた」に傍点]女郎を相手にしたつて始まらねえ。やい、權三。(縁に腰をかける。)手前も海驢《あしか》の生れ變りぢやああるめえ。なんで一日寢そべつてゐるのだ。長屋中が惣出《そうで》の井戸がへを知らねえか。寢ぼけた面《つら》を早く洗つて、みんなと一緒に綱を引きに出て來い。ふだんから相棒のよしみに
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