いて騷ぐ。大屋さんも氣の毒がつて色々世話を燒いてやる。それに釣り込まれてわつし等もついうつかりと詰まらねえことを饒舌《しやべ》つたもんだから、今さら拔きさしもならねえやうな羽目になつてしまつて、たうとうお奉行所まで引張り出されるやうなことになつてね。
勘太郎 (冷かに。)いや、それは大抵知つてゐますよ。その節は色々御心配をかけました。
助十 まあ、さう云はねえで、一通りは聽いておくんなせえ。何もわつし等だつて確かに見とどけたと云ふわけぢや無し、ほんの夜目遠目でちらり[#「ちらり」に傍点]と見ただけのことだから、正直にその通り云ふ筈だつたのが、御白洲へ出て曖昧な事を云つちやあならねえ、何でもはつきり[#「はつきり」に傍点]と物をいへと大屋さんが云ふもんだから、物の間違ひが自然と大きくなつて、お前さんにも飛んだ御迷惑をかけてしまひました。今となつちやあ、わつし等もまつたく後悔してゐるんですから、どうかまあ料簡しておくんなせえ。
おかん ほかの事とは譯が違つて、まつたく料簡の爲《し》にくいことでせうが、わたくし共が打揃つて幾重にもお詫をいたしますから、どうぞ御勘辨なすつて下さいまし。
勘太郎
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