これも災難とあきらめて、我慢しなさい。我慢しなさい。
與助 幾年も馴染んだ此の猿を金にかへられるものか。(又泣く。)
雲哲 さう云つても今更仕樣がない。(勘太郎の手より金を受取る。)さあ、これで代りの猿を買へばいゝのだ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ]
(雲哲と願哲は與助に金をわたし、なだめながら助十の家の縁の方へ連れてゆく。與助は猿をかゝへて泣いてゐる。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
勘太郎 わたしはなぜこんな手暴《てあら》いことをしたか。くれ/″\も堪忍して下さい。あゝ、これで肴《さかな》も臺無しになつてしまつた。まあ、酒だけでも納めて貰ひませう。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ]
(勘太郎は落ちてゐる鯣を足にて蹴飛ばす。このあひだに權三と助十は眼で知らせ合ひ、形をあらためて勘太郎のまへに出る。)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
權三 もし、勘さん。どうも何とも申譯がありません。この長屋にゐた彦兵衞のせがれが大坂からわざ/\下つて來て、おやぢの無實を訴へると云つて泣
前へ
次へ
全84ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング