かゝつてゐながら、ついお見それ申しました。お前さんは助さんの弟さんでしたね。わたしは豐島町の勘太郎ですよ。(云ひながら權三と助十に眼をつける。)おゝ、權さんも助さんもそこにゐるのか。
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(權三と助十はだまつて俯向《うつむ》いてゐる。)
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勘太郎 早速ですが、わたしも飛んだ災難で、小一月も傳馬町《でんまちやう》の暗いところへ送られてゐましたが、流石は太岡越前守樣のお捌きで、白い黒いはすぐに判りまして、きのふの夕方、無事に下げられて來ました。
おかん (やはりもぢ/\しながら。)それはまあお目出たうございました。
勘太郎 今度のことに就きましては、權さんと助さんには色々御心配をかけたやうに聞いて居りますので、これはほんのお禮のおしるし、甚だ失禮ではございますが、どうぞお納めをねがひます。
おかん はい。(とは云ひながら手を出しかねてゐる。)
勘太郎 (助八に。)では、八さん。どうぞこれを……。
助八 (同じく變な顏をして。)え、どうしてこんな物を呉《く》んなさるのだね。

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