むだらうか。(かんがへる。)もしお呼び出しになつて、今度こそは入牢申付くるなぞと來た日にやあ助からねえぜ。
與助 あの彦三郎といふ人は年も若し、親孝行の一心から出たことだから、上のお慈悲もあるだらうが、おまへ達はどうだかなあ。
助十 このあひだは牢へぶち込まれようが何うしようが構はねえといふ料簡だつたが、さて斯うなつてみると、どうも牢なんぞへは行きたくねえ。やつぱりあの時に止せばよかつたのだ。やい、權三。おれは一生手前を恨むぞ。
權三 そんなことを云つてくれるなよ。かうなりやあお互えに一蓮托生《いちれんたくしやう》ぢやあねえか。なにしろ何うも弱つたな。
おかん (權三の袖をひく。)おまへさん。いつそ今のうちに姿を隱しちやあどうだえ。
權三 おれが逃げたら、あとの者に難儀がかゝるだらう。今度はおめえが町内預けにでもなるかも知れねえぜ。
おかん (涙ぐむ。)そりやあ亭主の爲だもの、仕方がないやね。
助八 ぢやあ、兄い。おめえも逃げることにするか。逃げるなら、大屋さん達の歸らねえうちの方がいゝぜ。
雲哲 だが、二人を逃がしてしまつたら、家の者ばかりでなく、大屋さんや月番の行事は勿論、まかり間
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