前がつまらねえ娑婆《しやば》ツ氣《き》を出して、云はずとも好いことをべら[#「べら」に傍点]/\しやべつたもんだから、到頭こんなことになつてしまつたのだ。
權三 それだからおれも唯、勘太郎らしいと曖昧《あいまい》に云つて置かうと思つたのを、大屋さんが何でも勘太郎に相違ございませんと、はつきり[#「はつきり」に傍点]云つてしまへと指圖するもんだから、おれもつい其氣になつたのだ。手前だつて御白洲《おしらす》で、確かに左樣でございますと云つたぢやねえか。
助十 そりやあお奉行樣が確かに左樣かと念を押すから、おれの方でもついうつかりと、ハイ左樣でございますと云つてしまつたのよ。おれが好んで云つたわけぢやあねえ。
權三 好んで云つても云はねえでも、御白洲で一旦云つてしまつた以上は、もう取返しは付かねえ。どうしたら好からうな。
助十 さあ、どうしたらよからう。おい、八。なんとか工夫はあるめえかな。
助八 それ見ねえ。めい/\のからだに火が付いてゐるのだ。兄弟喧嘩なんぞしてゐるやうな場合ぢやねえぢやあねえか。
おかん ほんたうに夫婦喧嘩どころの騷ぎぢやあないよ。
權三 所拂《ところばら》ひぐらゐで濟
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